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2011/08/16

Rewriteと宇宙木に関する小考

 Rewriteをプレイし終え、レビューをしてみると、ますますRewriteが纏っている違和感が気になってしまった。そこで、その違和感を解消する為、Rewriteの世界観とその背後に流れる思想について少し考えてみた。

 ネタばれ注意。プレイ済みの人、プレイしない人、かっぱん病に掛かっている人のみ閲覧推奨。

                                  

・Rewriteと樹木信仰

 プレイし終えた人なら、Rewriteが樹木信仰を下敷きにしていることは容易に納得出来ると思われる。世界の鍵を握る少女、篝は風祭市周囲にある森の大木の下で生まれる自然と生命の理の体現者であった。物語の中心となる彼女の周辺には様々な神話的シンボルや神話学の思考法が明確かつ意図的に表現されている。それらを解きほぐし、Rewriteの背景にある世界観を探っていきたいと思う。

                                  

・宇宙木、中心のシンボリズム

 篝の生まれる地、風祭の森にはドルイドの結界によって守られた大木があった。そして、その大木の下には地球から生命の力(アウロラ)が湧き出しているパワースポットがあった。これらの設定は、直球ストレートにエリアーデの「中心のシンボリズム」であろう。「中心のシンボリズム」とは、特徴的な自然物、物体、建造物(そり立った岩、塔、寺院など)を宇宙の中心に据え、そこから生命の力の創出や宇宙の始点を見出す世界中で見られる神話的思考法である。むろん、大木も宇宙木として中心のシンボリズムに挙げられる。

 無数の神話や伝説は、宇宙を象徴する宇宙木(七層の天に相当する七本の枝)を登場させている。それは世界を支えている木や中央の柱であったり、その実を食べる者に不死を与える生命の木か不思議の木、などである。
 これらの神話や伝説はそれぞれに「中心」の理論を織りこんでいる。それは「木」は絶対的実在、生命と聖の根源を具現し、それによって世界の中心に位置する、という意味においてである。

ミルチア・エリアーデ『聖なる空間と時間』

 風祭市は魔物使い達の集団であるガイアの聖地であり、物語終盤に於いて実際に世界中を巻き込む闘争の中心地となるだけに、篝の生まれる森の大木は「中心」となり得るだろう。篝は、生命の理の体現者であるだけに彼女の生まれる「場所」が宇宙の中心のシンボルを帯びるのも当然であるように思われる。

                                  

・ガイアとガーディアンの闘争、祖型と反復

 Rewriteではこの中心の宇宙木を持つ風祭にて地球の使者たる篝を巡った戦いが起こる。この闘争の中にもかなり神話的なシンボル・思考法が練り込まれているように感じられる。まず、闘いの担い手であるガーディアンとガイアの能力について考えてみたい。

 ガーディアンの超能力は、実はその個人が固有に開発した能力ではなく、人類がこれまでの歴史で会得してきた「獲得形質」を潜在的に引き出すことによって使用可能となる能力であった。能力は大別して「狩猟系」「伐採系」「汚染系」に分かれ、神代、人類が自然を克服して発展する過程で後天的に身に付けた技能の結晶であると説明される。つまり、ガーディアン達が操る能力は過去神話の始まりの時代に於いて英雄たちが編み出した技を再現・繰り返しているということである。これは中心のシンボリズム同様、エリアーデの「祖型と反復」を連想させる。現実の特定の出来事や活動の中に、文化英雄たちが人間たちに授けた技能(農耕、狩猟、採集など)を見出し、それを象徴的に繰り返すことによって世界の始原の時へ参入しようという発想である。ある行動を行う時、その人物は始まりの時の英雄となるのである。

 対するガイアの魔物の創出は、命(アウロラ)の力を使って生命を再創造する技であると説明されている。この技術によって生物の死体から魔物を作り出したり、街一つを再現したりと多様なことが出来る。こちらも「祖型と反復」に関連付けて考えることが可能である。「祖型と反復」は俗的な時間を廃して、世界の始まりを持つ聖なる時間に回帰しようという思考である。それを参照すると、魔物の創造もまた、生命の始まりの時の再現であり、そのような思考を下敷きとして設定されているようにも思える。

 また、彼らの能力だけでなく闘争そのものも「反復」されたものであると考えることが出来る。生命の源泉であり中心のシンボルを持つ風祭での戦いは単純に現代だけの闘いではなかった。古来より鍵の少女を巡っての闘争が風祭の地で繰り返し行われたことが作中でも述べられている。更に言えば現人類よりも古い、滅び去った先文明の人類もまた風祭で戦い続けてきたという半端なく長大なタイムスパンが本編の前史としてあったのである。加えて宇宙木を巡る闘争というイメージも、元ネタとして神話に遡ることが出来る。有名な例を挙げれば、英雄ギルガメッシュ・エンキドゥと怪物フンハバの戦いがある。怪物フンババの護るレバノン杉の森を人類の手で管理する為に、怪物フンババを殺すという物語は、人類と自然の相克を主題としたものであった。Rewriteでは人類の守護者たるガーディアンは文明を牽引する英雄に源流を持つと説明されていた。そして、敵対するガイアは獣の怪物を操り、文明の行き過ぎた発展を諌める。かなり意図的な対立構図である。つまり、Rewriteに於ける闘いは、神話の時代・更にそれを遡った先文明の闘いの「祖型」を「反復」していると考えることが出来る。しかも、それが「宇宙の中心」である地で行われるのであるから、かなり神話的で雄大な物語を形成していると言えるのではないだろうか。Rewriteは神話的な「時間」を持つ叙事詩である。

 したがって、それがどれほど逆説的に見えようとも、未開社会の「歴史」と呼び得るようなものは、「かのはじめ時に」起り、それ以来今日に至るまでくりかえされてやまない、神話的出来事にのみ還元される。
 近代人にとって、真に「歴史的」とみえるもの、すなわち、唯一独自で不可逆的なものはすべて未開人からみると、神話=歴史的前例をもたないゆえに、重要ならざるものとされるのである。

ミルチア・エリアーデ『聖なる空間と時間』

                                  

・ドルイド、森の王、金枝篇

 Rewriteにはガーディアンとガイアの二大勢力の他にドルイドと呼ばれる特殊な魔物使いが存在する。ドルイドは、篝に仕えこれを守護する存在である。小鳥は不幸な交通事故の後、森の中でヤドリギを見つけ、事故で死んだ両親を蘇生させる為にヤドリギと契約しドルイドとなる。言うまでもなくここの元ネタはフレイザーの「金枝篇」であろう。

金枝篇-Wikipedia

 ネミの湖の森の王も、金枝に類されるヤドリギも自然の理の写し身であると「金枝篇」の中で述べられている。そして、ドルイドはオークとヤドリギの信仰者であった。Rewriteの小鳥も自然と生命の理の体現者である篝の守護者であるだけにドルイドという名を冠するに相応しい。そして、篝自身は仮初に人の姿を取っているだけの化生であった。彼女はある意味、自然の運行と秩序を象徴する「金枝」であり「森の王」であったのだろう。

                                  

・王殺し、神殺し、再生

 自然と生命の理を体現する篝はRewriteの中で幾度も殺される。出番の少なさと併せてここが不遇ヒロインの所以であるように思えるが、執拗に「殺害」という言葉を使う所に何か意図的なものを感じる。ここから連想されるのは、「森の王の殺害」であろう。何故自然の秩序の写し身である森の王を殺害するのか、というのはフレイザーの金枝篇の主題であった。それは、弱まって汚れた自然の力を再生させる為に、写し身である存在を殺害する、という神話的思考法に基づいている、とフレイザーは結論した。森の王が殺されるということは自然の力が弱まっている証拠であり、殺害したものが新たな王となるのは自然の力をより大きく再生する為に必要なことであった。

 「森の王」も神聖な霊の化身として、その霊が完全なまま後継者に移されるために、殺されなければならなかったのだ。「森の王」の地位にあるうちに、より強い力をもつ者に殺されるべきだとする掟は、その神聖な力を全盛のままに保ち、その活力が衰えたとたんに、ふさわしい後継者に移すためだと信じられていたのだろう。なぜなら、強い支配力で地位を維持出来るかぎり、「森の王」の天性の力は衰えていないと考えられていたからだ。

J・G・フレイザー 『図説 金枝篇』         

 王をなんらかの形で神と同一視していたため、王は自然の一部であり、自然の運行の要だとみなしていた例をあげて、フレーザーは自然と王のつながりについてさらに明確に説明する。(中略)

 すなわち、「森の王」は人間の姿をしたオークの神であり、その王が継承者の手にかかって死ぬのは、植物の死と再生という自然界の秩序を反映したものであり、自然界を存続させるためなのである。「王は死に給う。とこしえに王の生き給わんことを」。

J・G・フレイザー 『図説 金枝篇』 

 Rewriteで瑚太朗に「篝を殺す役割」が与えられ、Terraルートのラストシーン、崩壊しつつある世界の中で篝にブレードを突き刺して殺害することでその崩壊を止めるシーンなどは、「神殺し」「王殺し」のモチーフが色濃いように思われる。尤も、篝は自然を再生(再進化)させるために逆に人間を滅ぼす存在であったし、篝を殺しても地球の再生そのものが不可能であったが。再生の不可能性は恐らくRewriteの要となる要素だろう。それはここまで考えてきた樹木信仰・神話的思考を覆す。

                                  

・神話からの旅立ち

 ここまでRewriteの神話的モチーフについて考えてきた。だが、エンディングを見た人ならば分かると思われるが、Rewriteの結末というのはこれらの神話的思考を全て破棄する展開であった。Rewriteは自然の再生を全て否定してしまうからである。もはや地球は自然の再生が不可能な段階であるので、最終的には生まれ育った惑星を捨て、宇宙の生存可能な惑星に生命を広げていけ、これがRewriteの環境問題へ下す結論である。明らかにこれはフレイザーやエリアーデとは異なる思考法である。フレイザーもエリアーデも、自然や始まりの時・場所への再生と回帰という思想が根幹にあった。それを徹底的に否定し、地球という「場所」も始まりの時への回帰という「時間」も全て捨て、未来へただ邁進せよ、というのである。トゥルーエンドで流れる「CANOE」の歌詞にそれは明確に示されている。

 島の外には 何かあるのか 

 少年と少女達は森の木を使って 

 海の向こうに広がる水平線を見渡せるほど高い櫓を立て始めた

 果て無き夢を目指し 彼らはやり遂げた

 ぐらつく足元 度胸は大丈夫か その頂に今立つ

 あの海を 遠く遠く見渡す その向こうに 新しい世界が見えた 幻想の様に

 その場所にはどうすればいけるのか 

 少年は決めた船を造ろうと それで渡ろう

 それにはもっと沢山の木が 必要で切り倒し続け 

 とうとう島の木を全て切り株に変えてしまった

 でもまだ足りないものがある 風を受ける帆の柱

 ただひとつ残された 「母樹」と呼ばれる命 

 それにも手をかけ 彼らは 旅へ

 振り返ると島は何かに食い荒らされた後のような姿で小さくなってく

 それは他でもない僕らで

 生まれてしまった僕らで

 生きていこうとする僕らで

 この海を遠く遠く 越えてゆけ 大きな帆で風を いっぱい受け止め

 新世界を目指せ もしまた終わりが訪れたとしても 

 君に届けたい この長い長い旅のその意味を

 希望を繋ぐため

 『Rewrite』CANOE

 ここで言われる「母樹」は宇宙木であろう。その「母樹」を切り倒してでも未来に進めとは驚きである。もはや、再生も回帰もない。人間は再生出来る場所も、回帰出来る時間も捨てて宇宙という外洋に向かうべきなのである。ここまで設定に仄めかされていた神話的イメージから旅立ったと言えるのではないだろうか。

                                  

・鍵よさらば

 これらの小考を経て、Rewriteをプレイして個人的に抱いていた違和感の正体が分かった。それは、Rewriteが従来Keyの持っていた神話的な回帰・再生やローカリズムを意識的に脱却しようとした作品であったからである。Keyの作品は、今まで一つの場所を軸に、壊れてしまった関係を回復して調和に回帰しようという思想があったように思っている。 そして、「旅立ち」よりも「旅の終わり」を重点的に描いてきたように思う。Kanonでは、追憶の色を帯びた冬の街でそれぞれ途切れてしまった関係を回復させる。AIRでは千年に渡る少女を救う旅が一つの夏の街で終り、悲しみの記憶から解放される。CLANNADでは変わり続ける春の街の中で見失いかけた絆を取り戻し、光の中で人々が祝福される。どの作品も色濃く回帰的なイメージを持つ。しかし、Rewriteは回帰を否定して新たな場所に旅立つべきだ、という。レビューではRewriteの問題の解決方法は鍵的である、と述べたが、考え直してみると根本は鍵の回帰的世界からの離脱だったのかもしれない。だからこそ、Keyの作品という色眼鏡で見た時違和感が生じるのだろう。鍵殺し、というのは流石に穿ち過ぎなのかもしれないが。

 ここまで長々と書いてしまったが、結局言いたかったことは、Rewriteは恐らく何かしらの形でKeyの作品の区切りとなるだろうという至極単純なことである。あまりブランドイメージや衒学に囚われ過ぎると本質を見失うことにもなってしまうだろうけれど、自分の考えに一つ整理を付ける為に記事にしてみた。願わくば、旅立ちに祝福があらんことを。

 

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