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2011/09/10

魂を漁る少女-暁美ほむらの系譜-

 今年度に入ってからまどか☆マギカの記事を乱発してきたが、振り返ってみると最も重要な登場人物であるほむらについての記事を書いていないことに気付いた。カップリングとしては、まどほむ、杏まど、QBまどが好きな自分としては何か書かないとどうにもすっきりしない。ムラムラする。ということで、また虚淵作品に出てきたキャラクターやモチーフと絡めながらほむらの事を考えていきたいと思う。

以下ネタばれ有り、ネタばれを気にしない人、黒ストッキングを頭から被りたい人のみ閲覧推奨。

 

 

・ほむらちゃほむほむ

 ほむらと聞いて、いの一番に連想するのはストーキングであろう。キャラ個別スレを見ても、Pixivを見ても、同人誌を開いても、そこにいるのはまどかを守る為に監視し、ストーキングし、ぱんつを被るほむらの姿である。彼女のまどかに対する想いは熱烈であり、故に変態ストーキングキャラがすっかり板についてしまった感がある。また、それと関連してまどかを守るためならばどんな手段も使い、犠牲を恐れないという苛烈さが連想される。魔法少女らしい可憐さとは程遠い、やばい所から盗んだ火器をメインウェポンにしている所からして、苛烈と言わず何と言おう。この揺ぎ無い愛情とそこから生まれる危うさこそがほむらの魅力の一つであると自分は考える。では、この危うさの元型となるキャラは存在しないのか、と考えると一人心当たりがある。Phantomの暗殺者、アインである。

 

・最強のヒットマン、アイン

 以前、杏子のキャラ系譜の時にも取り上げたが、やはり原点はPhantomだろう。

 アインは米ギャング界最強の暗殺者である「ファントム」の初代であり、マインドコントロールを施され人を殺す為だけに用意された人間兵器である。主人公のツヴァイこと吾妻玲二が二代目ファントム、ドライことキャルが三代目ファントムである。アインである彼女は、命令を忠実にこなすだけの人形であり、だからこそ最強たり得た。

 だが、彼女はツヴァイこと吾妻玲二と出会うことにより劇的に変わっていく。ファントムの弟子を作る目的で組織インフェルノに誘拐された玲二は、洗脳とアインからの教育を受け一人前の暗殺者に成長するが、ふとしたきっかけでマインドコントロールを脱することに成功してしまう。自我を取り戻した彼はアインを囚われの檻から救い出そうとする… そして彼女は変わる。変わることを余儀なくされる。アインというコードネームではなく、新しい名前で呼ばれることで彼女は生まれ変わろうとするのである…

 

・「名前を呼んで」

 名前こそ、ファントムの最も象徴的な要素と言っても過言ではない。彼女達は特別な名前で呼ばれることにより、自分自身を手に入れようとする。玲二がアインに付けた名前は「エレン」。この名前が彼女の新しい人生の礎となった。ツヴァイから玲二へ、ドライからキャルへ、そしてアインからエレンへ、皆名前を呼ばれたことで忌まわしい軛から己を解き放とうとし足掻き苦しむ。

 まどか☆マギカのほむらもまた名前が重要な意味合いを持つ。かつて初めてまどかと出会った時に、まどかが「ほむら」という名前に新しい意味を加えた。「燃え上がるように、かっこいい名前」「名前負けしないようになってしまえばいい」というまどかからの言葉はほむらの原点だろう。新しく生まれ変わりたい、何も出来ない自分を変えたい、という思いが彼女の魔法少女のイメージの根幹にあるのは間違いない。

 両者に共通するのは「名前によって新しい命を得た」というイメージだろう。祝福されたと言ってもいいかもしれない。アインは玲二にエレンと呼ばれることで生まれ変わり、ほむらはまどかにほむらちゃんと呼ばれることで魔法少女として生まれ変わるきっかけを得た。そして、彼女達の世界と運命は一変してしまったのである。

 

・そこが無限の地獄ではないのは

 もう一度、ファントムに話を戻そう。自由を求めて組織を逃げ出した二人を待ち受けていたのは、地獄のような日々であった。運命の悪戯によって殺し合い、別離を迎えながらも再会した二人の間にはいつしか愛が芽生えていた。まさに殺し愛である。そうして、エレンは自分に新しい光を与えてくれた玲二を守り抜き、地獄のような世界を生き抜いていくことを誓う… ファントムのハイライトとも言えるシーンである。

「この世界が無限の地獄じゃないとしたら、
それはあなたが生きているからよ」

 魂が痺れる。エレンの生き方をそのままそっくり表したような台詞である。彼女にとって玲二は世界の全て。玲二の前に立ちふさがる者には決して容赦しない。実際、あるバッドエンドでドライに玲二を殺されたエレンは、地の果てまでドライを追い回してその仇を取っている。

 その苛烈さ、容赦の無さ、ほむらのまどかに対する思いに通ずるものがある。魔法少女となり、死を迎え最悪の魔女と化すまどかの運命に対する絶望と怒り。どんなに魔法少女の世界が地獄であったとしても、まどかを死の運命から救い出さんとする誓い。

「…あなたの為なら私は、永遠の迷路に閉じ込められても 構わない」

 眼鏡を捨てた後のほむらは凄まじい覚悟の持ち主だった。彼女はエレンと違って直接的に人に手を下す描写こそないものの、それをし兼ねない危うさも感じ取れるように思われる。(尤も、殺人をしてしまえばかなり魔女に近づきそうだが)この鬼気迫る思いが反動となって二次創作で変態ほむらさんを生んだのだろう。守るためならば、ぱんつを物色してもあるいは仕方ない… ベリーハード。

 彼女達の道標であるまどかと玲二は希望そのものだ。その希望を守る為に地獄のような世界でもがくことになる。しかし、ほむらの場合、まどかがほむらの覚悟や意図を正確に把握できない為、理解者である玲二がいるエレンよりも遥かに苦しいものであることは間違いない。

 

・受難と祈り

 ふたりとも、始めは何者でもない存在であったが、運命の人と出会い名前を授けられて祝福された。だが、それによって同時に苦しみと絶望をも味わうことにもなった。命を与えてくれた大切な人を守るために全てを捨て、全てを捧げるそんなキャラクター達である。

 ふたりは、まどかと玲二に出会わなければここまで深い絶望と苦しみを味わうことはなかっただろう。全てを諦めて、自棄になってしまえば希望を持たない分だけで裏切られて絶望することもなかった筈なのだから。しかし、出会ってしまった。希望を与えられた代わりに絶望を知ってしまった。「希望と絶望は差し引きゼロ」を体言するようである。そして、彼女たちは希望と絶望の相克を真っ向から受け止めようとするのである。

 ファントムの最終章は極めてキリスト教のイメージが濃厚である。人を殺しまくった暗殺者の話で汝殺すなかれのキリスト教はなかろう、と思われるかもしれないが、プレイしてみるとこれが恐ろしくしっくり来る。以下、印象的なやり取りを本編から抜粋してみよう。

「告悔が、まだだから」

「……」

たしかに、エレンが懺悔するとなれば、
そこいらの神父様では、手に余る内容になるだろう。

「……誰にするんだ?懺悔」

「神様に、直接  いつかは、会えるはずだから」

「……」

いつか、神様と出会う日……  
やがて訪れるその日まで、エレンはこの孤独な静寂の中で、
ただ祈り続ける気なのだろうか。

「撃たなきゃ、ならない。全て俺のせいなんだから」

薄闇にひっそりと聳え立つ十字架を、見上げる。

贖罪の証。

悔恨の戒め。

「あの刑具にかけられた男は、人の罪を背負って死んだんだろう?

彼に救われた人々は、そのことを悔やんで……

2000年経った今も、ずっと後悔し続けてる

そんなの、俺は嫌だ

自分の罪を肩代わりしてもらうなんて…

そのあとの後悔に、きっと俺は耐えられない

俺はあの子(キャル)の人生を台無しにして、

後戻りできないような所まで追い詰めた

だから俺があの子を殺す

あの子の怒りも、悲しみも……全て俺が背負う」

 ファントム最終章のメインテーマが表れている部分である。玲二もエレンも、自分が犯してきた罪を懺悔出来ない。信仰によって今楽になってしまうのではなく、生涯罪を背負い続けることを選ぶのである。そして、本当に救済されるのは死ぬ時… 殺し屋でありながら恐ろしく敬虔である。人形のまま全てを諦めていたなら、罪を背負う必要などなかった、しかし自らの意志で生きようと決めたことで全ての罪を背負わなくてはならなくなった、そんな二人である。ここでも希望の裏返しである絶望はついて回る。

 まどか☆マギカの改変後の世界でも、絶望は否定されなかった。魔法少女たちが抱いた希望もそれによって生じる筈である絶望も清算して無にすることなく、限界まで尊重した。結局、まどかが魔法少女たちの神となり信仰の対象とならなかったのは、魔法少女たちの抱いた想いと選択を無にしない為だったのだろう。魔法少女達はまどかを認識出来ず、ほむらもまた干渉することが出来ない。救いは示されても、希望と絶望は各々が背負う他ない。希望により生ずる絶望は、この世を去る時まで胸に抱え続けなくてはならない。改変後の世界のほむらはその代表者でもある。彼女がまどかが愛し守ろうとした世界を生き抜くこと、戦い抜くことはそれ自体が希望でありながら、まどかとの別離という絶望でもある。彼女が真の意味で救済される時は、いつかこの世を去り、まどかと再会する時であろう。

 両者の祈りは決して届くことはないが、それでも終わりが来るまで虚空に祈り続ける。完成されるのは死ぬ時だ。

 

・それは世界を侵す恋

 彼女達は一つの希望の為なら、他の全てを捨てる、その為にどんな罪も絶望も背負い続ける、という力強い存在である。だが、これは見方を変えれば多分に狂信的であるとも言うことが出来るのではないだろうか。そこにどんな愛があれ、覚悟があれ、それに巻き込まれて犠牲になる人から見ればたまったものではない。爆発しろ、と言おうとしても、爆発してミンチになるのはその他大勢に含まれた自分の方なのである。少なくとも、万能ではない。

 ほむらのまどかに対する想いの危うさは、特にスピンオフであるおりこ☆マギカで強調された。ほむらの前に立ちふさがる織莉子は、最悪の魔女が生まれる前にまどかを殺害し犠牲を以て世界の救おうとするが、対してほむらは本編同様、世界の命運などアウトオブ眼中でただまどかを守ることだけを考える。亡き父の影を追って町と世界を守りたい織莉子にとって、ほむらがいかに邪悪な存在に感じられるか、察するに余りある。ほむらにとってまどかは希望でも、織莉子にとっては最大級の絶望でしかない。両者は決して分かり合うことはない。

 別の作品を挙げると、沙耶の唄では、純愛へのアンチテーゼが描かれる。フミノリもまたほむらやエレンと同じく沙耶によって再び命を与えられたようなものだが、最終的には二人の恋と希望が世界を滅ぼす。二人にとっては最大級の希望であっても、その他人類にとっては最大級の絶望だった。更に言えば、二人が本当に通じ合っていたのか、真の意味で存在を認め合っていたのかは疑問の余地がある。ただ、認識が変わり果てた世界で、まともに見えたのが沙耶だけだったから恋に落ちたのか、そうでないのか、ただのイメージの押し付けか、本当の姿の沙耶を正面に見据えて愛することが出来なければ証明出来ない。純愛とは、希望であり真実のように見えて、実は絶望であり幻想の如く虚ろなものではないのか、と警鐘を鳴らしている。

 ほむらやエレンのそれは、祝福ではなくただの呪縛ではないのか、周囲からみれば邪悪な存在ではないのか、そう考えるのも間違いではないのかもしれない。

 

・「頑張って」

 しかし、そういう側面を見つつも、ほむらやエレンは危うい魅力がある。確かに恐ろしい面もあるが、だからこそ彼女達の「愛する力」は凄まじい。数多の可能性を捨ててただ一人を愛そうとすること、その力強さに戦慄しつつも惹かれてしまう。断じて貞淑ではない、毒もある、だからこそ彼女達は生き生きして見える。反貞淑という意味ならば、ビッチ萌えにも転用出来るだろう。

 虚淵作品の基本はディスコミュニケーション、決して調和した結末に収束しない。人々は散り散りバラバラ、決して心の底から分かり合うことなく、衝突し合い、争い合うそんな世界である。残酷な世界だが、だからこそ力強く貪欲に愛する彼女たちは映える。直向に希望と絶望を背負いながら生きる彼女たちは、荒野のような世界に咲く大輪の花なのではないだろうか。ほむほむ。

※今回はメンタルに関わる件のみなので、膜の有無に関しては言及してま(ry) まどかを人質に取られて、ほむらさんが893にニャンニャンされる同人誌は山のようにあるので、各々脳内補完するのがベストだと思います。ただ、時間遡行の能力で病院のベッドに戻れば膜が再生してるような気がする。まさにバージンリレイズ、ウワァオ…

Ein

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コメント

 こんばんわ。私は虚淵氏の作品はまどマギとブラスレイターと、ブラックラグーンのノベライズ版しか読んだ事が無いので、虚淵氏の過去の名作のヒロインとの比較考察は大変参考になります。

 ほむらさんの時間遡行はソウルジェムだけが平行世界に移動して、その時間軸の”暁美ほむら”の身体に”上書き”されていると思うので、膜の心配はないと思います。

投稿: はらだいこ | 2011/09/12 21:14

ありがとうございます。Phantomは虚淵氏の作品の方向性や思想が特に色濃く表れているのでおススメです。

確かにその都度身体に上書きされていたら、何の問題もないですね。でも膜問題はよく考えたら、魔法少女にとって身体は単なるハードでしかない以上、重要なのはやはりメンタル… 膜の話を記事内で振っておいてなんですが…w

投稿: ネ右 | 2011/09/12 21:34

膜の話を振っておいてもうひとり忘れてはならない虚淵ヒロインの話に繋げるかと思ったら終わっちゃうんですか! モーラさん……

投稿: | 2013/10/31 01:22

処女膜再生という夜の眷属ならではの特性をフル活用しているモーラさん!
正直な所、処女膜処女膜言いったかっただけです、今は反省している。

投稿: ネ右 | 2013/10/31 20:55

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